今回のクルーズでは予想外の出会いがあった。カンムリウミスズメとの出会いである。この周辺海域では、近似種のウミスズメは繁殖しており、私が乗った日の前日には雛連れのウミスズメが見られたという。それに対してカンムリウミスズメは、繁殖地の北限は太平洋側では伊豆諸島、日本海側では石川県の七つ島周辺と言われており、落石周辺海域では繁殖は確認されていない。したがって、今回の個体は伊豆諸島などで繁殖した個体(カンムリウミスズメの繁殖時期は早く4月~5月)がこの場所まで北上した可能性が高い。もともとカンムリウミスズメは日本海流や対馬海流といった暖流の流れに沿って生息しているといわれる。この時期、この落石周辺で見られるカンムリウミスズメは夏期に流れが強まる日本海流にのってやってくるという仮説が成り立つのではないだろうか。。
さらに興味深かったのが、すでに冬羽になっているという点。図鑑などでは繁殖地周辺で撮影されたであろう夏羽のカンムリウミスズメの写真はよく目にするが、冬羽のカンムリウミスズメの写真はほとんど見ない。もちろん私自身の初めて冬羽を目にした。夏羽のような冠羽はなく、頭頂は黒く、逆に喉から首にかけては夏羽と同じく白いが、その白い部分が目の前後にまで及ぶ。
カンムリウミスズメの繁殖の実態などは最近の調査等によって徐々に明らかになってきているが、繁殖期以外の行動にはまだまだ不明な点が多い。落石周辺では毎年7月~8月にかけての観察例が多いとのことなので、カンムリウミスズメの行動に関して貴重な記録となるのではないだろうか。
2013年7月下旬・撮影地根室ユルリ島周辺海域